展示会に行ってみる?
僕は何も最初からメガネが好きだったワケじゃなかった。その話はコチラをご覧ください。
いざ、展示会会場「東京ビッグサイト」へ

『異世界のようだ・・・』
会場のゲートをくぐり、感じた第一印象です。
見たことのあるブランドの数々、それぞれのブランドコンセプトを表現して作りこまれたブース。
何かのフィルターを通したかのようにキラキラとしていた会場。
メガネがたくさん並んでいるんだろうなぁ、とただ漠然と思っていた会場のイメージは一瞬で吹っ飛びました。
少し物怖じしてしまっていたこともあり、しばらくは金魚のフンのように先輩について歩き商品を見て回ります。
しばらくして、
「じゃあ、高橋君、よろしくね!」
分かってはいたけど、一人残されるのはシンドイものがあった。
しばらく動けずに、通路の中央で固まっていたのを覚えています。
『折角の機会だから、見つからなくても探してみよう!』
そこから、ぶらぶらと会場を歩きはじめます。
メガネを好きになるきっかけ『歩』との出会い
しばらく歩いていると、周りのキラキラした雰囲気とは対極の雰囲気を醸し出す『黒くて小さいブース』が目にとまります。
その時は一旦通り過ぎました。
が、やっぱり何となく気になって戻ってきたんです。
小さいブースの中には恰幅の良い社長と、小柄な奥さん、テーブルにイスが2脚。
お世辞にもカッコイイ、おしゃれという雰囲気ではありませんでした。
どこか重々しい雰囲気すらあったように覚えています。今考えるとよく入ったな、と。笑
僕「お話を伺ってもいいですか?」
歩「いいですよ!」
話を聴いてみると、どうやら「セルロイド」という素材を使った手作りのメガネフレームらしい、と。
これはもしかして、先輩から言われていた『職人系のメガネ』なのでは??と話を聴いていきます。
で、ドンドン引き込まれていくワケです。
『歩は長く使ってもらいたいから、手間でもここをこうしているんです』
『セルロイドは硬く、磨くのも難しい、でもそれをキレイに磨くことが出来ると本当にキレイに光るんです』
『歩は職人が一枚一枚丁寧に作っていきます。だから完成には他のメガネ以上に時間がかかってしまうんです』
『展示会用のサンプルもお客様に見てもらうものだから検品はかなり厳しくしています。一度展示会の2週間前に全部作り直させたこともあるんですよ!』
とにかく社長のメガネに対する想いが熱い。
で、僕が最終的に惚れた言葉が
『実はこの前、取扱店の方から〇〇さん(一流プロ野球選手)が自分で見て、良いものだと、選んで買われていったんですって。』
で、この後の社長の一言ですよ。
『でも、言わないでくださいね!〇〇さんが使っているからと使っていただくより、本当に良いものだと分かって使ってもらえる方が嬉しいから』
「グサーーッ」ですよ!
これだけ時間を掛けて、売れたら嬉しいけど、売れなくてもいい。
それより、本当に良いものだと分かってくれる方に大切に使ってもらいたい。
そのスタンスが、心に刺さりました。
もう、僕の気持ちはココで決まった。
絶対『歩』を入れるんだ!!と。

修業先の社長に直談判
早速、「職人系のメガネを探してきてよ」と話をもらっていた先輩スタッフに話をします。
でも当時、取扱店も全国で30社ほどしかない、ほぼ無名に近かった『歩(アユミ)』というブランドにあまり興味は示していなかった。
そりゃそうですよね、知らないものは怖いですから。
当時、もっと有名な職人系のメガネはたくさんありました。
で、修業先の社長にも直談判です!
今になって思うと相当バカだったと思います。
だって修業中ですよ。お世話になっている立場で新商品の導入をプッシュしてるって、何も考えていない証拠ですね。
ただ、この「何も考えないで前に進む」って時として大切な時もあるように感じます。
交渉する事、約半年。
たぶん、僕に根負けした形で『歩』の導入が決まります。
展示会の時に「何本でもいいですよ」という話をいただいていたので、初期導入の本数は6本始めさせていただくことにしました。
無理を言って導入を決めてもらった手前、僕の中では
『売れなかったら全部自分で買おう・・・』
という覚悟はしていました。それがせめてもの礼儀だと。
熱い炎を受け継いで
その後、歩の社長からの話を僕なりの言葉で、お客さんに説明していったんです。
そうしたら
「えー、そこまでしてこの金額は安い!!」
そんな声をたくさんいただきました。
実はここにも『歩』の優しさが隠れています。それは
『いくら良いものを作っても使ってくれる人がいないと意味がない。』
という考えのもと、価格を設定しているからなんです。お客さんの言うとおり安すぎるんです。
一貫して使い手の事を考えているブランドなんですよね。
そして、無事6本のフレームを販売。補充も掛けられるように。
何より嬉しかったのは、最初は興味を示していなかったスタッフも少しずつ興味を示してくれたこと。
この『歩』のおかげで僕はメガネを好きになったし、職人さんが好きになった。
一つのメガネというモノにどれだけの情熱を注いで、どれだけの時間を掛けて、どれだけの人を想って作っているのかを知ることが出来た。
店頭に並んでいるメガネは必ず誰かが作っています。
その想いを伝えるのが僕たちメガネ屋の仕事のひとつだという事を感じたのも、この一件があったから。
僕のメガネに対する感覚をひっくり返してくれた大切なブランドです。

衝撃の事実を知る
実はこの導入が決まり『歩』に電話をしたところ、全く覚えていなかったそうです。
展示会でもらった名刺をひっくり返して僕の名刺を探してくれたんだとか。
それをみて、そういえば若くて一生懸命話を聴いていた子がいたな、と思い出していただいたらしく。
その後の展示会で6カ月交渉して入れさせてもらえたんです~、という話をしたところ。
安易な気持ちで取引をしたいというお店を断る理由にされていたようです。
話を聴いたときは笑いましたね~。
僕の知り合いのお店の方も一度断られたんだとか。
頑固で、愚直、曲がったことが大嫌いな『歩』。
人の見える良いブランドなんです♪